高野文子 - 黄色い本 ジャック・チボーという名の友人(2002)

前作「棒がいっぽん」を立ち読みしてこりゃスゲエと思って手に取った一冊。前作と比べて絵が手抜き…というかラフになってて何を描いてんのか把握しづらい。しかもこの人の漫画は内容も型にはまってないしアングルもかなり凝っているので読者にかなりの理解力が求められる(その点はずっと変わらない)。アングルについて語るが、まずこの人は空間把握能力がすごい。この人の頭ん中には確かに部屋の内装があるし、だからそれをデフォルメして描く事もできる。だからディテールは薄味でも深みは失われていない。これは手抜きっていうよりそういうデザインだという他ない。その能力があるからこそあらゆるアングルで人物を配置し描く事ができる。これによって普通では描かれない繊細な所まで表現が可能になっている。(これで絵を書き込み過ぎれば、内容から読者の目は逸れてしまうかもしれない。)描かれているのはなんの変哲もない日常なのだがそれがとても面白い。漫画とは作者の感性と視点を完璧に読者にトレースして好きな景色を見せることが出来る魔法のツールなのかもしれない…そう思わされた。天才です。

収録作品は黄色い本ージャック・チボーという名の友人ー、CLOUDY WEDNESDAY、マヨネーズ、二の二の六、の4本。

黄色い本〜は東北あたりの寒いとこに住む本が好きな女学生の話。時代背景は多分昭和だな。その辺は作者の実体験基づいてるところもあるかもしれない。過激な描写が全くなくて緩慢にならず叙情性に満ちてるなんて凄いですよ。ハッキリいって絵は全く可愛くないんだけど(作者も可愛く書く気ない)それがめっちゃ可愛いの。愛着が湧く。作者の類稀なる観察力から繰り出される自然な仕草や表情によるところだろう。幸せってのは普段の行い、周囲の人の愛情、信念を持つこと、そんなものから形どられていくんだなって感じた。感動した。

CLOUDY WEDNESDAYは雑誌の企画で他作家の漫画を再度作品化するという変わった作品で、元は冬野さほという人の作品。この作品も日常を描いたものだが、そこから更にメッセージ性すら省いて、ひたすら可愛らしい人の営みが得意の凄アングルによって堪能できる美しい作品。

マヨネーズはOLの日常かな。この作品は、かなり難しい。いや、多分わかる人にはすっと理解できるものだと思うけど主人公の感情がどこでどうなって最終的にああなったのかがよく分かんない。これは相手の男性がよく分かんない対象として描かれているが、僕は男性なので寧ろ主人公の女性の気持ちが分かんないっていうのが面白いところ。分かんないだけに気になるそんな作品。

ニのニの六はホームヘルパーさんのお話し。これは事件性のある作品で逆にわかりやすくかなり笑えました。

…以上バラエティに富んでいて素晴らしい一冊でした。